創業80年を迎える有機赤色顔料メーカー「冨士色素株式会社」。
顔料・ナノテクノロジーの分野はもちろん、他社に類を見ない最先端材料を次々と生みだす卓越した技術力と研究開発は、国の内外を問わず、オープンイノベーションに積極的な企業や大学からの熱視線を集めています。
工学博士としての自らの深い知見を活かし、鋭い嗅覚と持ち前の行動力で常に時代の最前線に立つイノベーションプレイヤー、冨士色素株式会社社長の森良平様にお話を聞きました。

顔料・色材を基軸にしながら最先端素材分野を開拓

冨士色素株式会社 取締役社長 森様(左)とリンカーズ株式会社 田野邊(右)

深い知見と鋭い直感で「最先端」のそのまた「先」を狙う

 リンカーズ  田野邊 リンカーズ  田野邊

本日は宜しくお願い致します。早速ですが、冨士色素株式会社の事業内容についてお聞かせください。

冨士色素 森 様冨士色素 森 様

はい、よろしくお願い致します。弊社は、祖父の代から80年続く会社で、私は4代目の代表取締役になります。もともとはアゾ合成による有機赤色顔料※を作るところから始まりました。

アゾ合成による有機赤色顔料とは

窒素原子が二重結合したアゾ基を持つ顔料。
冨士色素株式会社では、特に用途に合わせた多彩な赤色を生成している。

最近は、この有機赤色顔料に加え、ナノ微粒子分散の技術を活かし、インクジェットインクにも力を入れています。特に近年、このナノテクノロジーの分野では、産業用の特殊印刷のニーズが高まっています。看板や布、テキスタイルなどへの印刷もこのインクジェット印刷が中心となってきました。

さらに、私の代になってからはエネルギーや環境など、顔料・色材とは全く違う分野における最先端材料の研究を開始しました。研究を始めて5年ほどになりますが、電池や触媒などの先端材料の開発に成功し、ありがたいことに国内外の大学や企業とのお取引が始まってきています。少しずつですが、確実に手応えを感じています。

イノベーションに反発は必至

 リンカーズ  田野邊 リンカーズ  田野邊

息の長い日本企業に多いケースなのですが、こうした新しい取り組みを始めるとなると、社内の反発もあったのではないでしょうか?

冨士色素 森 様冨士色素 森 様

もちろんありました。いえ、今でもありますね(笑)

もともと色材の会社ですから、まったく異なる新しい分野への取り組みには当初から反発の声が上がっていました。私も「今売上に繋がらなくても、将来的に成長が見込める研究を卑下するな!」と本気で怒ったこともありました。今は、反発はある程度無視して、しっかりと目に見える結果を残していきたいと考えています。

確かに、このような研究は、一朝一夕で成果が出るものではなく、成功事例が積み上げにくい分野です。けれども、弊社が開発する最先端材料はどこでも手に入るものではなく、希少性が高いため、最近では興味を持った大手企業や大学から「ぜひとも売ってくれませんか?」という嬉しい声をいただくようになりました。これからも小さなヒットを重ね、強気で新規の研究開発にも邁進していきたいと考えています。

イノベーションの始まりは、飽くなきチャレンジ精神

保守的な日本企業にありがちなのですが、「新しいことをしない」という消極的な姿勢では、これから先、他のアジアや欧米の国々との競争にかなわなくなってしまいます。

イノベーションの始まりは、何より飽くなきチャレンジ精神にあります。
弊社の最先端研究は市場予想とのにらめっこではなく、研究者独特の鋭い嗅覚からスタートします。
事業規模の算出にかかる時間を省き「とりあえずやってみよう」の心意気で小回りよく開発を進め、軌道に乗せていくことができるのが弊社の強みです。
今後もこの先見性と機動力で今まで以上に積極的に開発を進めていく計画です。

開発から営業、技術提案まで。一貫した対応が事業のスピードアップに繋がる

 リンカーズ  田野邊 リンカーズ  田野邊

最先端材料はどのようにして企業に売り込んでいくのでしょうか?

冨士色素 森 様冨士色素 森 様

私が最初の研究から売り込みまですべて行いました。しかし、ある程度その材料が合成できる、商品化する可能性の目途がつけば、その材料を最終的にキレイに商品となるように仕上げていく。この作業はもう私一人では時間が足りません。やはり、新規事業を創出する時は明確な責任者を立ててやりきることが重要だと考えています。

研究者は売り込みが苦手な人も多いものですが、私はいつも自分自身で電話をかけ営業をおこなってきました。カタログ作りから、電話での営業や問合せも全部担当しました。やはり開発に携わった本人が一番その材料について理解していますから、責任者が一気通貫で担当することが必要不可欠だと思います。

また、この方法であればスピードの面でもアドバンテージを生みだします。研究に携わる者が直接お客様のお話を聞き取ることで、ニーズに適切に応えることができるのはもちろん、さらにこちらからもよりレベルアップしたご提案が可能になるのです。

組織作りの決め手は若手の向上心とベテランの経験にあった

 リンカーズ  田野邊 リンカーズ  田野邊

御社のWebサイトを拝見し、研究開発には特に力を入れておられるようにお見受けしました。

冨士色素 森 様冨士色素 森 様

そうですね。社員の約40%を研究部員にあてております。

研究開発の分野では、「頭の中ではできあがっているけれど、いざ言葉で説明すると言葉足らずになってしまう」ということがよくあります。弊社では、説明しにくい意図を正確に読み取る感覚が鋭く、常に学ぶ姿勢を持っている若手メンバーを中心に研究にあたり、向上心と探究心を持って開発・改良を行っています。

同時に、研究職は長年の経験が何より強みとなる職種でもあります。それまで積み重ねてきた研究実績が、また新しいアイディアを生みだす種になるのです。そのため、弊社ではベテランの研究者を積極的にプロジェクトにアサインし、その奥深い知見を活かして活躍してもらっています。
「経験豊富なシニア」と「やる気のある若手」、この絶妙なコラボが弊社の多彩な研究開発を牽引しているのです。

エネルギー・環境分野での応用が期待できる冨士色素の最先端技術

冨士色素が研究開発する驚きの最先端材料

 リンカーズ  田野邊 リンカーズ  田野邊

最先端材料の中でも特に力を入れておられるものを3つあげていただけますか?

冨士色素 森 様冨士色素 森 様

すべてに注力しているのですが、あえてあげるとすると、赤外線遮蔽、セルロースナノファイバー、量子ドットになります。

赤外線遮蔽

弊社の赤外線遮蔽材料は従来のものとは異なり、「透明だけれど、熱を通さない」ということが最大の特徴です。たとえば、屋根であれば色が付いても構いませんが、窓にコーティングする場合はそういうわけにはいきません。赤外線を通さず、かつ、透明であることが、車や家屋の窓に使用する際の重要な必須条件となってきます。

売り始めて2年ほど経ちましたが、ちらほらとリピート注文も入り始めてきています。「窓に塗ったけれど、少し青みがかる」といった声があれば、もちろんニーズに応え、さらに改良を重ねます。常にお客様に寄り添った研究開発ができるのも、弊社ならではの強みであると考えています。

セルロースナノファイバー

セルロースナノファイバーは現在、日本の素材化学の中で最も力と予算が注ぎこまれている分野といっていいでしょう。「安くて環境に良い」「軽くて丈夫」という究極の天然材料として、多くの企業が参入している領域でもあります。

弊社の特筆すべきポイントは、このセルロースナノファイバーを最初から最後まで自社のみで製造しているという点にあります。通常は大学と共同で進めるような複雑な研究開発なので、セルロースナノファイバーの内製化を目指している企業は少ないのが現実です。どこかから買ってきた素材に自社の素材を練りこむという企業が多い中、弊社は「作る・練りこむ・測定する」までを一気通貫しておこなっています。とことん内製化にこだわることで、スピードとコストダウンの両方を実現することが可能となるわけです。

量子ドット

恐ろしく小さい微粒子が無限の可能性を生みだす量子ドットの世界。
弊社ではこの量子ドットの研究にも注力しています。

テレビや太陽電池、バイオマーカー、AIなどにも応用が期待される量子ドットの開発研究ですが、まだまだ今世紀中にどんなことが実現できるのかも分からないような未知の分野です。
すでに弊社は実際に量子ドットを製造する段階にまで研究を進めているため、大企業や大学からも問い合わせが入ってきて少量販売を始めています。

赤色顔料 ~ ナノテクノロジーを利用した産業用インクジェットから、新たな最先端素材へ

最先端素材を別組織にし、さらなるイノベーションを生みだす

 リンカーズ  田野邊 リンカーズ  田野邊

最先端素材の分野における今後の方針をお聞かせください。

冨士色素 森 様冨士色素 森 様

最先端素材の分野を別組織にし、さらに研究開発を促進します。

先ほどの話にもありましたが、日本という国の特徴として、「新しいものに対する反発」というのは、どうしても避けて通れないところがあります。
そこで、いっそこの最先端材料の分野を別会社にしていこうと考えています。
組織を分け、トップダウンで開発に取り組むメンバーに確固たる権限と裁量を与えます。
研究に集中するいわば「イノベーションの特別部隊」を作ることで、さらに新技術を応用していく幅が今以上に広がっていくのではないかと期待しているところです。

スピード感が勝負の決め手

私は常々、仮説を作ったらどれだけ早くできるかというスピード感が勝負の決め手だと認識しています。もちろん市場調査の重要性も理解していますが、時間ばかりとられるのはもったいない気がしてなりません。そういった意味でも、経営者からのトップダウン方式でいつでも迅速に動ける「本気の組織」作りは最優先事項だといえるでしょう。

実は、私の頭の中には今すでに3つほど新しい構想があり、その内容は燃料電池や人工光合成など、その内容は多岐にわたります。「本当にできるんですか?」と聞かれることも多いですが、このあたりのカタログができあがったら一気に別会社をスタートさせたいと考えています。国内外の研究機関と共同してオープン・イノベーションを巻き起こし、最先端材料の分野をどんどんと拡大していくことを目指します。

顔料・色材の土台があってこそ産業用特殊インクジェットに力を入れることができ、その先に最先端材料がある

 リンカーズ  田野邊 リンカーズ  田野邊

御社の根幹ともいえる顔料・色材の分野についてはどうお考えでしょうか?

冨士色素 森 様冨士色素 森 様

ナノテクノロジーを駆使した産業用特殊インクジェットインクは、今後も弊社のアピール製品となってくるでしょう。

現在、弊社製品の構成比率は、顔料・ナノテクノロジーが98%、残りの2%が最先端材料となっています。最先端材料の研究を進められるのも、根幹となる顔料・色材があってこそのことです。

そのため、特に、ナノテクノロジーを駆使した産業用特殊インクジェットインクにはこれからも引き続き力を入れていきたいと考えています。近年の産業用特殊インクジェットインクの発展は目覚ましく、現在ではプラスチックや布だけでなく、石にまで応用される時代となりました。これからもまだまだ市場拡大の見込める分野だと考えています。

また、顔料は従来通り日本での市場が主になりますが、ナノテクノロジーは海外展開も十分に期待できる分野です。

さらに、ナノテクノロジーと最先端材料がうまく結びつき、相乗効果が生まれるという弊社独自のアピールポイントも活かしていきたいと考えます。

イノベーションに積極的な海外に目を向けるのは今

 リンカーズ  田野邊 リンカーズ  田野邊

今、海外展開のお話もありましたが…?

冨士色素 森 様冨士色素 森 様

はい。今後は海外営業にも積極的に取り組んでいきたいと考えます。

これからは、弊社もイノベーションに積極的な海外への展開が必須になってきます。私自身は海外での論文発表も新規海外営業もまったく苦にならないのですが、やはり海外出張を尻込みする日本人は多いものです。現在はまだ少数ですが、今後は有能な外国人や語学に堪能な人材をどんどん採用し、電話1本で海外に飛んでいくような機動力のある営業部隊をつくりあげていくつもりです。

特に先ほどもお話ししたナノテクノロジーの分野は、まだまだ海外市場に大きな需要を期待できます。
海外営業がチャンスを掴む大きな鍵となるだろうと確信しています。

事業の成長には会社の認知向上が近道となる

 リンカーズ  田野邊 リンカーズ  田野邊

最後になりましたが、まとめの言葉として、今後御社をどのような企業へと成長させていきたいかについてお聞かせください。

冨士色素 森 様冨士色素 森 様

事業を成長させるためにはまず『知ってもらうこと』が大切なのではと考えるようになりました。

今までは「企業規模の拡大」を目指していましたが、それはどうしても時間がかかってしまいます。
そこでまず、「自社の取組みへの認知向上」ということにウェイトを置いていくことが重要だと感じています。

新しく会社を立ち上げようと考えている最先端材料の分野では、弊社だけが持つ特殊な技術が大きなアドバンテージを生みだします。
まずは弊社のイノベーション部門として新会社を盛大にアピールし、知名度を上げていくことができれば、おのずから会社の規模拡大にもつながっていくのではないでしょうか。
そういう観点から、宣伝やプレスリリースに打って出ることも面白いのではないかと思っています。

安定した実績を持つ顔料、海外営業でさらなる飛躍を図るナノテクノロジー、そして、世界でも類を見ない最先端材料。今後もこの3つの軸でお客様のニーズにスピーディーに応えていきたいと考えます。

冨士色素株式会社 森良平様からの学び

  • イノベーションを起こそうとする時には必ず反発が起きます。社内の反発にかかわらずイノベーションが上手くいく組織づくりのパターンの1つは、まだ既存の概念にとらわれていない若手社員と、知識と経験が豊富かつ組織のしがらみから卒業したベテラン社員の組み合わせでチームを作る事です。
  • 一気通貫はスピードアップの秘訣です。例えば開発者が営業までこなすことで、捉えたニーズを製品に反映させるスピードがアップしますし、材料製造から自社に内製化する事で「作る・練りこむ・測定する」といった工程にスピードを持たせる事ができます。
  • 冨士色素には、顔料や特殊インクジェットという会社としての基礎があるからこそ最先端分野に挑戦できる。

リンカーズのサービス内容・会社概要資料希望の方へ

ものづくりパートナー(研究・開発・量産など)探索で発注をお考えの企業向けの、サービスの流れや費用を記載した資料、案件を受注したい候補企業向け資料などが無料ダウンロードできます。是非内容ご確認ください。

資料ダウンロードはこちらから