空調事業全世界ナンバーワンの企業として、地球規模で躍進を続けるダイキン工業株式会社。
「次の欲しい」を先取りするという経営理念のもと、これまでも数々の技術開発を行ってきました。そんな「技術のダイキン」が大阪・摂津市に創り上げたテクノロジー・イノベーションセンター(以下、TIC)。

今回は、副センター長としてダイキン工業株式会社のオープンイノベーション推進を力強く牽引されている河原克己様にお話を伺いました。センター内にオープンイノベーションの意識を根付かせるため、その提唱者でもあるヘンリー・チェスブロウ氏(※1)をも招く徹底した学びの精神は、さすが「世界のダイキン」と言わざるをえません。オープンイノベーションに取組もうとしている全ての企業にとって参考となるダイキン工業株式会社のイノベーションマインド、是非ともじっくりとご覧下さい。

※1 ヘンリー・チェスブロウ氏

カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネス客員教授。「オープンイノベーション」という言葉を広めた人物として名高い。2004年に日本でも著書『OPEN INNOVATION』が翻訳されると、その思想は瞬く間に広がった。

ダイキンのオープンイノベーションの全ては、ここTICにある

ダイキン工業株式会社 河原様(中央)とリンカーズ 田野邊(左)、リンカーズ 三好(右)

世界のダイキンのコントロールセンター、TIC

リンカーズ 田野邊リンカーズ 田野邊

本日は宜しくお願い致します。早速ですが、TIC設立の経緯についてお聞かせいただけますか?

ダイキン 河原様ダイキン 河原様

よろしくお願い致します。TICは2015年11月に、弊社の『オープンイノベーションを推進する世界的な拠点』を設立したいという大きな目標のもと設立されました。

もともと10年前に、現在の取締役会長兼グローバルグループ代表執行役員を務める井上が大がかりな研究所をつくろうと検討を始めたのがきっかけでした。その後、リーマンショックや震災などの環境変化を経る中で、単なる研究所にとどまらず、オープンイノベーションを基軸に、次の成長エンジンとなり得るような開発拠点を構築するためにつくられたのが、このTICです

おかげさまで空調部門世界第1位となった弊社は、事業規模も2兆円を超え、世界145カ国に事業展開するようになりました。R&Dセンターもグローバルに8カ所点在しています。TICは、そういった世界全体の研究開発のコントロールセンターとしての機能も持ち合わせています。本来、基礎研究所、応用研究所、開発研究所など、それぞれの拠点は分れて置かれているのが通常です。けれども、ここTICではそれらの機能を一カ所に集約させることでイノベーションをダイナミックかつ迅速に巻き起こすことを可能にしています。

建築的な観点からもオープンイノベーションを巻き起こすTICの構造

リンカーズ 田野邊リンカーズ 田野邊

このTICの建物は、建築的な観点でもオープンイノベーションを促進する工夫が組み込まれているとお聞きしましたが・・・?

ダイキン 河原様ダイキン 河原様

弊社ではTICの建築を『協創の場づくり』であると捉えています。議論を活性化させイノベーションを促進させる空間を作るためにはどうすれば良いのかということを、様々な知見者の知恵を借りながら長い時間をかけて協議しました。建築図面の書き直しも何度も行いました。

ここTICには、現在700人ほどの社員が勤務しています。企画管理のスタッフが100名程度、それ以外の技術者600名の中には、研究者だけでなく商品開発に携わる社員もいます。設計の段階で、この大人数のメンバー全員と意思疎通が取りやすい建物とはどのようなものなのかということを繰り返し検討しました

例えば3階以上のオフィス空間では縦のコミュニケーションが取りにくくなります。かといって横に広く空間を取ると、端から端までの距離が遠すぎます。ある統計によると、人間がお互いに声を掛けやすい最大距離は30m。それならば、700人全ての社員から30m以内の位置に中2階を設け、「350人×2フロア」の構成にしようということで決定しました。

そうして生まれた中2階は「ワイガヤステージ」と名付けられ、部門の垣根を越えて、皆が知恵を出し合うイノベーティブな空間が出来上がりました。余裕を持って設けられているはずの全ての座席が埋まっていることも多く、議論の活性化を誘発するという当初の建築目的が果たせたと自負しています。

4階5階のオフィスフロアを繋ぐ「ワイガヤステージ」。日々イノベーティブな議論が巻き起こっている。

随所に巡らされたオープンイノベーションを生みだす工夫

その他にも、6階には「フューチャーラボ」というオープンなスタジオ型の空間をつくりました。いったん目の前の現実から離れ、リラックスして、社内外の人たちと自由な議論を繰り広げられるフリースペースとして利用されています。同じフロアには、世界中の大学教授や研究者の方々をお招きするフェロー室も用意しました。京都大学や大阪大学のサテライトオフィスとしての機能も併せ持っています。

2010年ノーベル化学賞を受賞した根岸英一先生(※2)のフェロー室。世界屈指の専門家の知見が「協創」を生みだす。

※2 根岸英一先生

パデュー大学ハーバート・C・ブラウン化学研究室特別教授、ペンシルベニア大学・東京大学名誉博士。2010年ノーベル化学賞を受賞。有機合成化学の分野で「根岸カップリング」と呼ばれるクロスカップリング反応を発見した。

外部の知恵を取り入れることがオープンイノベーションの基本

さらにTICは、外部の方々が気軽に足を運べるよう、3階に「知の森」と呼ばれるスペースも用意しました。隣接されたオープンラボを見学しながら、自由な発想で議論を膨らませていってもらいたいと考えています。

250人を収容できる円形講義室では、4カ国語への同時通訳にも対応し、大がかりなプレゼンテーションも可能です。

建物3階にある「知の森」。実際に最先端の研究開発を目にしながら、外部の人たちとの意見交換ができる。

TICの建物自体が最先端の実証実験場

さらにTICの建物は、「ゼロエネルギー」を目標に設計されています。太陽光や地熱を効率的に利用し、同規模の建築物と比べて70%もの省エネに成功しました。温度と湿度も完全にコントロールし、北米の建築環境評価機関であるLEEDからはプラチナ認証を、国内のCASBEEからはSクラス認証を受けているのです。

オフィス内の温度や空気環境は常時計測を続けています。開発したばかりの新製品を実際に取り付けてデータを取ったり、建物壁面のガラスをダブルスキンからシングルスキンに全て取りかえて、熱効率や省エネの実証実験を行ったりもしています。

弊社の持つ最先端技術を惜しみなく投入したこのTICの建物自体が、実証実験場としての役割を兼ね備えているというわけです。

オープンイノベーション精神を浸透させるために

オープンイノベーションの根底にあるダイキンの経営理念

リンカーズ 田野邊リンカーズ 田野邊

先ほど、10年ほど前からすでにTIC構想を練っておられた、というお話がありました。日本でオープンイノベーションという言葉が注目を浴びだした非常に初期の段階から取り組んでおられたということですよね…?

ダイキン 河原様ダイキン 河原様

そうですね。「協創」という概念はかなり前の段階から持っていたと思います。

もともと弊社の方針は、「色々な人たちを巻き込んで、たくさんの人に仲間になってもらい、知恵を借りながらやっていく」というものです。空調メーカーの中では珍しく、3000億円規模の大型のM&Aも過去に2回ほど行っております。また、女子プロゴルフトーナメント「ダイキンオーキッド」や、蓼科での音楽会の開催もまずは弊社のことを知ってもらい、「ダイキンファン」を増やそうということから始まっています。

そういった経営理念が土壌としてありましたから、比較的早い段階から「自前意識を捨てて外部活用をしながら発展していく」という考え方は、研究開発の分野でも取り入れられることになりました。「共に創り出す=協創」という概念を軸に、オープンイノベーションマインドを推進してきたのです

日本のオープンイノベーションの最前線を走る

リンカーズ 田野邊リンカーズ 田野邊

日本企業は自前主義が多い中、ここまで大がかりに取り組まれているのはまだまだレアなケースかと思います。外部と連携していくマインドは、社内でどのように育成しておられるのでしょうか?

ダイキン 河原様ダイキン 河原様

もちろん一筋縄でいかないこともあります。かつては、オープンイノベーションマインドを社内に浸透させるために、ヘンリー・チェスブロウ氏を招聘したこともあります。

やはりどこの企業でも、優秀な研究者ほど、プライドも自前意識も強い傾向にあるものです。そこで、当時の研究所長だった常務役員の稲塚と連携し、若い精鋭を集めてチェスブロウ氏から指導を受ける機会を持たせました。1人1人に意識改革を促すためには、ただ声かけをするだけではなく、こういった外部の人間から直に刺激を受けることも重要だと考えています。

そういった意味では、産学連携、とりわけ課題設定型の組織的な包括連携も、社内にオープンイノベーションマインドを根付かせるために欠かせないものの一つです。奈良先端技術大学院大学や京都大学とは、早くからトップ同士の意気投合で外部連携を進めてきました。現在では、8機関とともに新たな研究開発に取り組んでいます。

オープンイノベーションは一朝一夕には成らず

リンカーズ 田野邊リンカーズ 田野邊

今、包括連携のお話が出ましたが、大学など外部との「協創」を進めていく上で、ご苦労された点や工夫された点をお聞かせください。

ダイキン 河原様ダイキン 河原様

実際には、「TICができたからすぐにオープンイノベーションが推進される」というような単純なものではありません。そのため、建築前から非常に長い検討期間を設けました。

TICを建設するにあたり、技術役員全員が参画した構想委員会を設置しました。社長をプロジェクトリーダーとして、「ハードとしての建築プロジェクト」と「オープンイノベーションを軸とした協創マネージメントに関するプロジェクト」の2本立で綿密に構想を練っていきました。この助走期間の間に、先ほどお話しした奈良先端技術大学院大学や京都大学との包括連携が始まったのです。

TICには価値観が相反する大きな2つのミッションが与えられています。1つは世界中の現行事業に関する技術開発のコントロールタワーとしての機能です。2つめはもちろん、オープンイノベーションを巻き起こすこと。すなわち、既存事業の枠組みにとらわれず次の新しいものを生みだしていく使命を持っています。先ほどお話しした助走期間は研究職員が中心になっていましたが、ここは単なる研究所とは違います。

あくまで「オープンイノベーションセンター」なのだから、1つめのみならず、2つめのミッションの結果も残していかなければなりません。この異質なミッションの整合性をいかにとっていくかということに関しては、今もなお、頭を悩ませているところです。

オープンイノベーションをただの技術購買に終わらせないために

リンカーズ 田野邊リンカーズ 田野邊

外部連携を強化しようと思っても、既存の事業での問題解決に留まってしまい、画期的なイノベーションを起こせない、というお悩みは確かによく耳にします。

ダイキン 河原様ダイキン 河原様

そうですね。かつてのオープンイノベーションは、自社の悩みがあってそれを解決していく「技術購買」という側面が強かった気がします。

昔は大学の先生に「一緒に研究テーマを考えて欲しい。」とお願いすると、「甘えるな!」と叱られたものでした(笑)。「研究開発したいことは企業側で考え、具体化してから相談する」というのが当然の姿勢だと考えられていたのです。けれども現在、弊社が進める課題設定型の包括連携は、ただの技術購買の域に留まらず、全くの0から、テーマを探すところからのスタートでオープンイノベーションを巻き起こそうという取り組みです。

もちろん、大学のトップ陣や経営側の考え方がすべて、現場の先生方や企業の研究者たちに浸透しているかというとまだまだですが、トップダウンで環境を整え、素晴らしい成功事例が生まれてくれば、1人1人の意識も大きく変わることでしょう。

オープンイノベーションの最前線TICが見つめる未来

世界トップのダイキンが持ち続ける「挑戦者スピリット」

リンカーズ 田野邊リンカーズ 田野邊

今、成功事例というお話がありましたが、御社では何かアクセラレーションプログラム(※3)のような取り組みをされているのでしょうか?

 

ダイキン 河原様ダイキン 河原様

名前は違いますが、TICの中で「協創プロジェクト」というものを行っています。

※3 アクセラレーションプログラム

ある課題を解決するため、それぞれが知識や技術、ノウハウを持ち寄り、その相乗効果によって創造的で革新的なソリューションを見いだす取り組み。

協創プロジェクトは、通常業務のような縦のラインではなく、研究者から営業担当まで多種多様なメンバーが集まり、成果創出の加速のために部門や事業の壁を乗りこえて研究開発を進めていくプロジェクトの1つです。暖房事業、空気空間エンジニアリング事業、エネルギーソリューション事業といった分野で、本社直轄の横串プロジェクトを走らせ、ラインや予算にとらわれず、弊社全体の「加速」を目指して取り組みを続けています。

もともと弊社の企業風土は「二流の戦略より一流の実行力」。グズグズと悩んでいるよりも、とにかくチャレンジしてみようという考え方が常に根底にあります。現行事業の調子が良い中で、新規事業の開発をするとなるとなかなか難しい面もありますが、外部の知恵も借りながら大きな成果に繋げていきたいと考えています。

「イノベーティブデザイナー」という考え方

理研の理事長で、かつては京大の総長も務められた松本先生に、以前、「イノベーションデザイナー」という概念を教えて頂きました。通常、イノベーションの構想を練り全体図を描くのは、研究者の役割と考えがちです。でも、研究者はあくまでも「実行者」。そのため、自分が実行できる範囲のものしか描き出さない傾向にあるというのです。そこで、「実行しなくてもいいから、ただ構想を練るだけの人」を雇います。そうすると、制約のない自由な発想から素晴らしいアイディアが生まれるのです。

弊社でもこれを参考に、マーケティングやデザイン分野の出身者など、従来の考え方に拘泥しないイノベーティブな発想を持つ人たちの知恵を借りることが重要なのではないかと考えるようになりました。そういった取り組みからも、新しいオープンイノベーションの風を社内に吹き込んでいきたいです。

「ものづくり」から「ことづくり」へ。ダイキンが見据えるこれからのオープンイノベーション

リンカーズ 田野邊リンカーズ 田野邊

最後に、今後、TICとして目指す方向性についてお聞かせ願います。

ダイキン 河原様ダイキン 河原様

今、弊社は空調分野で世界第1位、フッ素化学の分野でも世界第2位を達成しました。この「ものづくり」トップを維持しながら、それに満足せず、新規事業の創出にも力を入れていきたいと考えています。

現在の状況を分析すると、弊社の主要事業である、空調・フッ素化学の両分野でも、やはりコモディティ化が進んでいるのは事実です。価格競争に打ち勝つためにも、純粋なハードウェアの技術革新が必要な時代となっていることは確かでしょう。TICが行う取り組みの中から、ハードの面でもイノベーションを巻き起こし、世界ナンバーワンを持続できるよう日々努力していかなければなりません。弊社の世界中の研究開発に関するコントロールタワーでもあるTICの意義が大きく問われることになるのです。

それに加えて、AI、IoT、デジタル革命、パラダイムシフト…といった言葉が次々に取り沙汰される昨今、弊社にもここ数年のうちに、非常に大きな事業変革の波が打ち寄せるのではないかと予想しています。ですから、「現行事業が世界1位」というだけで満足しているわけにはいきません。今後は「ものづくり」だけでなく、ソリューション、価値創造と言われるような「ことづくり」の分野にも大きく視野を広げていく必要があるのです。技術革新に留まらない、新しいビジネスモデルを含めたダイナミックなイノベーションをここTICから生みだしていきたいと考えています

ダイキン工業株式会社 河原克己様からの学び

  • オープンイノベーションマインドを社内に根付かせるためには、ただ単なる声かけだけでなく、実際の行動や刺激を与えていく必要があります。
  • 社内外を問わず、色々な人たちが知恵を出し合う「協創」という概念が、さらに大きなオープンイノベーションを巻き起こします。
  • ダイキン工業様は世界トップという現行事業に満足することなく、常に時代の声に耳を傾けることで、新たな価値の創造を目指している企業なのだと感じました。

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